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干物に関するちょっとした知識など

歴史に登場する干物

干物は古来より、魚を保存食として利用する目的で世界各地で作られてきました。 紀元前2500年頃のエジプトの壁画に魚を干物に加工する風景が描かれており、少なくとも当時から 干物の加工が行われていた事になります。日本でも、最古の記録では奈良時代まで遡ります。 正倉院文書によれば小魚を丸干しにした「月へんに昔」(キタヒ)、 内臓を除いて干した「月へんに粛」(アヘツクリ)、魚肉を細長く割いて塩干しした「楚割」(スハヤリ)などが作られていたとあります。

平城京遺跡から出土した木簡によると、税として干物が納められていたことが記されています。 当時の税制は租庸調といわれ「租」は稲、「庸」は本来は成人男性に課せられた都での労務でしたが、 代わりに布、又は調雑物を納めることもできました。調雑物は34品目の規定があり、そのうちの食料では 塩、アワビ、カツオ、煮ガツオ、イカ、イリコ、等32品目が規定されていました。 生の海産物をそのまま都へ運んでいては、途中で腐ってしまいますから、干物に加工したものを納めていたと考えられています。

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乾製品の種類

乾製品の種類

乾製品の製造は古来より、食品の保存性を高める目的で世界各地で作られてきました。 食品を乾燥させて保存性を高めたものを乾製品といい、細かい分類としては、 素干し品、塩干し品、煮干品、海草乾燥品、節類等に分類されます。
それぞれの代表的な製品としては以下の通りです。

素干し品

水揚げした魚をそのまま、或いは下処理した後天日乾燥または機械乾燥したもの。 肉厚のものには向いていません。原料をそのまま干すため極めて簡単ですが、製造中及び保管中に品質が劣化しやすい欠点があります。
代表的なものとしては、するめ、身欠きにしん、イワシ、干したら、干しタコ等

塩干し品

魚を下処理した後、塩分を浸透させてから乾燥させたもの。一般に小型の魚は丸のまま、大型の魚は開いてから加工されます。
代表的のものとして、開きアジ、いわしの丸干し、サバ等のほか、キス、フグ、鯛等の高級魚を用いることもあります。

煮干し品

原料の魚介類を煮熟した後、天日乾燥または機会乾燥させたもの。加熱後に乾燥するため原料の酵素が破壊され、自己消化が防止されます。また煮熟により 付着細菌が死滅するため腐食しにくくなり、保存性が向上します。
代表的なものは、煮干いわし(いりこ)、しらす干し、干しあわび等。

海草乾燥品

昆布、ワカメ等海草を素干し加工したもの。

節類

原料の魚肉を煮熟した後、焙乾したもの。
かつお節の他、ソウダ節、サバ節等

凍乾品

夜間と昼間の気温変化を利用して、凍結と融解を行い、脱水と乾燥を行った製品。
代表的なものとして、寒天、凍干しスケトウダラ等。

現在、一般に干物と言う場合はこの中の塩干し品の事を指す場合が多く、当店で扱う干物も この塩干し品に分類されます。

水分活性

水分活性

食品の保存性を高めるには、水分を減少させればよい事は広く知られていますが、単純に水分を減少させれば 保存性が高まるわけではありません。
食品に含まれる水分は、たんぱく質や糖類と強く結合した結合水と、束縛されずに自由に運動できる自由水にわけることが出来ます。 この内、微生物が活動するときに利用することが出来るのは主に自由水です。 つまり、食品の保存性を考えるときは、食品の水分すべてを考えるのではなく、自由水を中心に考える必要があります。

水分活性 water activity(Aw)とは、閉じた系において、純水の水蒸気圧をP0、食品の水蒸気圧をPとしたとき、
水分活性(Aw)=P/P0 であらわし、その食品中の水分子の自由度をあらわします。

微生物の増殖と水分活性

微生物はその活動において水分を必要とする為水分活性が低下するほど増殖が出来なくなり、 ある一定のレベル以下になると全く増殖が出来なくなります。 しかし、微生物の種類によっては普通の微生物が活動できないような低い水分活性でも増殖するものも存在します。

微生物の発育最低水分活性
微生物最低水分活性
一般的な細菌0.90
一般的な酵母0.88
一般的なカビ0.80
好塩性細菌0.75
耐乾燥性カビ0.65
耐浸透圧性酵母0.61

表の通り、細菌は一般的に乾燥に弱くAwが0.90以下になると殆どの細菌は活動できなくなります。次に乾燥に強いのが酵母でAw 0.88迄 最も乾燥に強いのが耐浸透圧性酵母でAw 0.61まで活動できます。この表から水分活性(Aw)を 0.60以下に下げることが出来れば微生物は活動 出来なくなることがわかります。

食品中の水分活性

主な食品中の水分活性は以下の通りです。

主な食品中の水分活性
食品名水分活性
野菜、果物0.99~0.98
鮮魚0.99~0.98
食肉0.98~0.97
ソーセージ0.83~0.78
ジャム0.79
味噌0.74
しょうゆ0.76
ビスケット0.33

鮮魚、野菜、肉等の生鮮食品は水分活性が高く、砂糖や塩等を含む加工食品は比較的水分活性が低くなっています。 中にはビスケットなどのように水分活性が極めて低い物もあります。

次に主な干物(乾製品)の水分活性を示します。

干物(乾製品)の水分活性
品名水分活性
開きアジ0.96
しらす干し0.87
いわし生干し0.80
干しエビ0.64
煮干いわし0.58

近年の傾向として消費者の嗜好に合わせて、より塩分を控えたり、乾燥を抑えた一夜干しなど、 より生魚に近い干物を生産する業者が増えてきています。干物生産の目的が かつての保存性を高めることから、食味を向上させる事に移ってきています。 この傾向は今後も続くものと思われ、その取り扱いは干物と言えども 鮮魚と同様に冷蔵(冷凍)保存し、出来るだけ早く調理するなどの注意が必要です。

乾燥方法

乾燥方法

伝統的に行われている天日乾燥(天日干し)は、太陽光を利用することで設備費を安く抑えることができ、 現在でも広く利用されています。しかし天然の太陽光を利用するため、天候に左右されやすく品質が安定しないことや 紫外線による品質の劣化を招きやすいなどの理由から近年では機械を利用した乾燥方法を利用することが増えてきました。

天日乾燥法

天日乾燥(天日干し)太陽光の輻射熱を利用して水分を蒸発させる乾燥法。大掛かりな設備を必要としない、 一度に大量に乾燥できるなどの利点があり、世界的に広く利用されています。
その反面、天候に左右されやすく悪天候時には乾燥を行うことができない等の欠点があり、品質が安定しない等の 欠点もあります。また、太陽光が強すぎる夏場等は紫外線による成分変化や、高温による品質低下など の理由により、国内ではあまり利用されなくなってきています。
しかし、欠点ばかりではなく機械乾燥法と比較した場合、旨み成分の量に違いはないものの、乾燥過程で旨み成分が 魚の表面に集まるため、より旨みを強く感じるという研究結果もあり、適切に管理すれば現在でも有効な乾燥方法といえます。

冷風乾燥法

現在、魚の干物製造で最も広く利用されている乾燥方法です。外気温より冷却(15℃~35℃)除湿(相対湿度20%前後)空気を乾燥室内で循環させて水分の蒸発を促します。 相応の設備を要するため、運転費はかかりますが、 天候に左右される事も無く、紫外線の影響も受けない等の利点から 製品の仕上がりは天日乾燥や後述する温風乾燥法に比べて良く 現在の干物生産において最も広く利用されている乾燥方法です。

温風乾燥法

室温~50℃程度の温風を原料に送って水分を蒸発させる乾燥方法。短時間で干すことが出来るため大量生産が出来るものの、 温度が高いため表面が変質しやすく、外観は悪くなります。そのため、一部の低価格品を除いて一般的な干物の生産に利用されることは少なくなっています。

文化干し(灰干し)

食品を透水性多孔質セロファンで包み、乾燥した灰に埋めて脱水する乾燥方法。 蒸発による乾燥方法とは原理的に異なり、水分子の拡散移動を利用した乾燥方法のため セロファンの孔径により水分子とともに取り除かれる成分に違いが出てきます。 通常はアンモニア等臭みの原因となる成分は透過し、アミノ酸等の旨み成分は透過しない孔径のセロファンを 使用します。空気や太陽光に触れることが無いため成分や外観の変質が起きにくく品質の良い製品を作ることが出来ます。 近年は乾燥灰に変わってシリカゲル等を利用することも多くなっています。

一般に干物の生産で利用される乾燥法は上記の4つ及びその改良型が主です。 干物の生産とはあまり関係ありませんが、その他の乾燥方法を以下に示します。

焙乾法

蒸篭に乗せた食品を焙乾炉に乗せて火床の熱で乾燥させる乾燥方法。高温の熱に晒されるため比較的短時間で 乾燥できる。同時に煙で薫蒸することで貯蔵性を高め、香り付けも行う。基本的には燻製作りと同じ工程を行いますが 焙乾法では燻製と比べて香りや比較的弱くなります。主にかつお節等の節類の製造に利用されています。

熱風乾燥法

高温(400℃~500℃)の熱風を吹き付けて水分を乾燥させる。主にフィッシュミールの製造に利用されています。

凍乾法

寒冷地で夜間と、日中の温度差を利用して行う乾燥法。夜間の低温により凍結し、日中の温度上昇により融解させて水分を流出させます。寒天や高野豆腐等の製造に利用されています。

真空乾燥法

減圧下で水分の蒸発速度が大きくなる現象を利用した乾燥方法。 食品は低温に保たれ、また酸素と触れることも無いため品質の良い製品が出来ますが、設備が高価で運転経費も高くなります。

真空凍結乾燥法

高真空下で凍結させた食品の水分を昇華させる乾燥方法。 食品は凍結状態を保ったままなので、成分の変質を抑えることが出来、 特に香り落ちや色落ちをしにくい等の利点がありますが 設備が非常に高価であり、また乾燥効率が悪いため、特殊な用途にしか利用されていません。

噴霧乾燥法

液状の食品を高温(150℃前後)の熱風中に噴霧して乾燥させます。インスタントコーヒーや粉ミルク等の製造に利用されています。

塩の効果

塩の効果

水産物を利用した保存食としては、干物の他に塩鮭、塩サバ、たらこ、数の子、塩辛等の 塩蔵品と呼ばれる、塩の効果を利用した食品があります。塩蔵品は干物の様に乾燥工程を含みませんが 塩の脱水効果、浸透した食塩による水分活性の低下作用によって保存性を高めた食品です。
干物の製造においても、塩蔵品と比べて、塩の使用量は少ないものの、塩蔵の後に乾燥を行っており 干物(塩干し品)は塩による保存性の向上と乾燥による、保存性の向上の二つをあわせた製品であると言えます。
また、塩にはたんぱく質を凝固させる効果もあり、その凝固作用により食べたときの食感を向上させることも出来ます。

たんぱく質凝固作用

魚肉は加熱すると、熱凝固して脆く、弾力がなくなってしまいますが、あらかじめ食塩を加えておくと弾力を持ち しなやかになります。この特性を最もあらわしたのがカマボコに代表される練り製品で、塩を加えた魚肉をすり潰し その後加熱することで、あのような弾力を生み出しています。
これは、塩が魚に含まれるミオシンというたんぱく質に作用して筋繊維の結びつきを強め、強い弾力を生み出すためです。 強く結合した筋繊維は、水分の保持力も高くなり、加熱したときにドリップ(汁)を出しにくく、食感も良くなります。 干物というと、水分が少ないというイメージがありますが、この塩の効果により、加熱したときの水分の保持力が高く 塩を加えずに加熱した魚よりも、干物のほうが加熱後の水分は多く残ります。これが、干物独特のジューシーな食感を 生み出しているのです。

防腐効果

食品に塩を加えると、腐敗しにくくなりますが、食塩自体に防腐効果や殺菌作用があるわけではありません。
塩分の濃度が高くなると浸透圧が高くなり、食品から水分が除去されると共に、高濃度の食塩を含む培地では 微生物は原形質分離を起こして発育できなくなるためです。
また、食塩の添加による水分活性(Aw)の低下も微生物の活動を抑える効果があります。
しかし、十分な保存性を確保するためには、かなり濃い塩分濃度を必要としますが、近年の健康志向により 食塩の使用量は低下傾向にあります。この理由は消費者の嗜好の変化が第一の理由として挙げられますが、 輸送、保存技術の向上により大量の食塩の使用を必要としなくなったことも大きな理由として挙げられます。

水分活性の低下

上でも述べたとおり、食品は水分活性を下げることで、保存性を高める事が出来ます。 食品に食塩を添加すると、食品に含まれる水分の内の自由水の一部が塩と結合して 結合水となります。微生物はその活動に水分を必要としますが、その活動に利用できるのは自由水だけです。
加える塩分が多いほど、水分は食塩と結合して結合水となるため、微生物は活動しにくくなり保存性を高める事が出来ます。

味覚への影響

食品に塩を加えれば当然のごとく塩味がします。塩の味覚への影響はこれだけではなく、 例えばスイカに少量の塩を加えると、甘みが増すことは良く知られています。 食品中に食塩が共存すると、アミノ酸等のうま味物質や糖等を強く感じるようになります。つまり味覚強度が増強されるということです。 逆に、適度な塩分を加えなければ、味覚強度は低くなります。減塩料理が美味しくないと不評なのはこのためです。

魚の旨味

うま味とは

「美味しさ」を感じるとき、最も重要な要素として「味」があります。味には、甘、塩、酸、苦の4基本味が あり、基本味はどれもお互いに交換することは出来ません。つまり基本味の一つである「甘み」をあらわすには、 甘みをもって行うほかに無く。塩辛さ、酸っぱさ、苦味をどのように組み合わせても 甘みを感じることは出来ないと言うことです。

日本料理に欠かせない味覚表現として「うま味」があります。うま味を感じる成分とは、 グルタミン酸等のアミノ酸やイノシン酸等がありますが、このグルタミン酸等から感じる「うま味」も先に述べた 4基本味とは独立したものであり、他の甘、塩、酸、苦をどのように組み合わせても、うま味を合成することが出来ないことが わかってきました。このような経緯から近年では、4基本味にうま味を加えて5基本味が提唱されるようになって来ました。 更に興味深い事に、グルタミン酸等のアミノ酸とイノシン酸、グアニル酸等のヌクレオチド系は組み合わせることで、それぞれのうま味成分を あわせた以上の効果。うま味の相乗効果があることがわかってきました。 処で、うま味と言えば日本料理の専売特許のように思われていますが、ジャン・アンテルム・ブリア=サヴァランの「味覚の生理学」(美味礼讃)に以下の記述があります。

科学の栄養学に対する最大の貢献はオスマゾームを発見したこと、いなむしろそれを明確にしたことである。 オスマゾームというのは冷水中に解ける獣肉の中の高度に味のある部分のことで、それがエキス分と違うのは、このエキス分のほうは 熱湯の中でなければ溶けないという点である。・・省略・・オスマゾームはさんざんわれわれの祖先に賞味された後に発見されたので、その点すこぶるアルコールに似ている。 これも幾多の世代を酔わせた末に、やっと蒸留によってそれを抽出する方法が発見されたのだ。

ブリア・サヴァランが述べている「オスマゾーム」とはうま味成分であることがわかります。しかし、ブリア・サヴァラン以降 このオスマゾームという言葉は全く使われていません。 「うま味」を賞味することには貪欲なフランス人も、それが何であるかについてはあまり関心が無かったのでしょうか。

新鮮な魚ほど美味しいのか

言うまでも無く、魚は鮮度が大切で、素材の持ち味を大切にする日本料理では、古くなってしまった魚では美味しい料理を 作ることは出来ません。昔から魚は一番鮮度が良いときは、刺身で、次は焼いて食べ、最後は煮て食べる。といいますが、 焼き魚も煮魚も鮮度の良い魚を使ったほうが美味しいのはいうまでもありません。

さて、魚が死んだ直後の身は柔らかくアルカリ性で、うま味成分はあまり多くありません。 魚肉をはじめとして動物の筋肉には、生体内でエネルギーを作る基となるATP(アデノシン―3リン酸)があり、 このATPが魚の死後分解されてイノシン酸などのうま味成分になります。 料理店の中には水槽の中で魚を泳がせておいて、お客の目の前で調理する活魚料理を売りにしている店がありますが。 そういった魚は、死後あっという間に食べられてしまいますので、ATPを分解してイノシン酸などのうま味成分を生成する時間が 全くありません。ですから、極めて新鮮ではありますが、うま味について言えば決して美味しい物ではありません。

硬直中が美味しさのピーク

魚は死んでからしばらくすると死後硬直が起こります。これは牛や豚などの食肉でも同じです。 食肉の場合、硬直中は筋肉が硬く美味しくないため一定期間低温で貯蔵し自己消化によって熟成させます。 これをエイジングと言い、この間に肉が柔らかくなり、また肉の酵素の働きによりうま味成分が生成されます。 エイジングに要する期間は、牛肉で14日程度、豚肉で5日、鶏肉では12時間程度とされています。 魚の場合は、元々身が柔らかいのでエイジングは必要ありません。ただし、大型のマグロやブリ。ヒラメなどの場合は筋肉が硬いため 刺身で食べるには死直後や硬直中は硬すぎて美味しくありません。このような魚はしばらく低温で貯蔵し身が柔らかくなってから刺身にしたほうが 美味しく食べられます。料理店でも大型の魚を仕入れた場合は、冷蔵庫内で1日寝かせた後に刺身にして提供しています。

一般的に魚は死後硬直に入るとイノシン酸やグルタミン酸等のうま味成分が増加を始めます。しかし死後硬直を過ぎる軟化した 魚の組織に最近が侵入して腐敗しやすくなります。更に軟化が進むと、せっかく増加したイノシン酸等のうま味成分が分解されて 味が悪くなってしまいます。このように魚の場合は、死後硬直中に美味しさのピークを向かえその後急激に美味しさが低下していくことがわかります。 鮮度低下の速度は魚種によって異なります。サバやイワシなど青魚は「サバの生き腐れ」と言われ鮮度落ちが非常に早いことが知られています。 一方、鯛等の白身魚は鮮度が落ちにくいのです。漁獲した魚を氷詰めにすると、マダラでは2~8時間。ハマチは4時間。マダイは24時間で硬直が最大になるといわれています。 しかし、硬直に入るまでの時間や硬直の持続時間は、魚の大小や死に方、保存温度、生存中の栄養状態によっても変化します。 魚を採った漁船は勿論、市場や販売店等でも出来るだけ鮮度が落ちないように工夫しています。

赤身魚と白身魚

赤身と白身の区別

魚には、マグロやカツオ、サバ等の赤身魚と呼ばれるグループと、鯛やヒラメ等の白身魚と呼ばれるグループがあります。 赤身魚は名前の通り褐色の身で脂が乗っており、濃厚な味のものが多いようです。一方白身は一般的に脂分が少なく淡白な味です。 しかし、実際には赤身、白身どちらに分類すればいいか判断に迷ってしまう魚も存在します。 たとえば、鮭の身は見事な赤色をしていますが、赤身魚と呼んでよいのでしょうか。また、鯵は赤身魚と呼ぶには 白い身の部分が多いような気がしますが、だからといって白身魚と呼ぶのは不自然な気もします。

実はこの赤身、白身の区別は、人間が便宜上区分しているだけで生物分類学上の分類とはあまり関係がありません。

赤身魚と白身魚

魚を輪切りにすると体側に赤色筋(血合肉)という赤褐色の筋肉部分が見えます。そのほかの白っぽい部分は普通肉と呼ばれます。 この色の違いは筋肉に含まれるミオグロビンと呼ぶ色素たんぱく質の量によるものです。 血合肉はミオグロビンを多く含み、普通肉は血合肉と比較して含まれるミオグロビンが少なくなっています。 一般には、普通肉の色が赤い魚を赤身、白い魚を白身魚とよんでいます。 つまり、普通肉に含まれるミオグロビンの量で区別されているのです。 しかし、生物学的にはこれとは異なり、赤色筋(血合肉)の発達した魚を赤身魚と呼び、あまり発達していない魚を白身魚と呼んでいます。

先程例に挙げた鮭の身が赤いのはミオグロビンではなく、アスタキサンチンという色素によるものです。ですから赤身魚とは呼べません。 鯵は赤身魚とされていますが普通肉は比較的白く、ミオグロビンの量も赤身と白身の中間といった程度です。

血合肉(赤色筋)と普通肉(白色筋)の性質

魚に限らず筋肉は筋細胞と言う細長い繊維が集まって出来ています。 赤色筋の筋繊維は細く、血管の割合が高くなっています。したがって血液に含まれるミオグロビンや、ミトコンドリアをたくさん含んでいます。 赤色筋が赤いのは、血液の色であるといえます。ミトコンドリア内ではミオグロビンの酸素により脂肪酸や糖質を分解し、これによって得られるエネルギーにより 筋繊維が収縮する仕組みになっています。

一方白色筋は、赤色筋と比較して筋繊維は太く、血管が少ないのが特徴です。白身が白く見えるのは血液が少ないから白く見えるのです。 赤色筋は大量に含まれるミトコンドリアによってエネルギーを得ていましたが、ミトコンドリアの少ない白色筋では、筋繊維内の細胞質によって エネルギーを得ています。細胞質内では酸素を使わずに糖質を分解し、このとき生み出されたエネルギーによって筋繊維を収縮させる仕組みになっています。

赤色筋は白色筋と比較して、筋繊維が細いため収縮が遅く、力も弱いものの外部から酸素を補給し続けることで長時間の運動が出来ます。 人間に例えると長距離ランナーのような性質を持っています。 一方白色筋は、太い筋繊維により収縮が早く、力も強いもののエネルギーを生み出す過程で乳酸が生成されるため持続的な運動は出来ません。 短距離ランナーのような性質を持っているのです。

マグロやカツオ等のように外洋を常に泳ぎ続けるような魚は、瞬発力よりも持続力が必要なため特に赤色筋が発達しています。 一方、鯛やヒラメ等沿岸付近の魚は、長時間の遊泳は行わないので持続力は必要ありません。一方餌をとる際や、敵から逃れるときには 瞬発力を必要としますので白色筋が発達しているのです。 また、サバ、ブリ等の沿岸性赤身魚は外洋性の魚ほどの持続力は必要としませんから、外洋性の魚ほどは赤色筋は発達していません。

天然魚と養殖魚

天然魚と養殖魚

最近ではスーパーで売られている魚も「天然」、「養殖」と明記されるようになってきました。 養殖魚の代表的なものでは、鯛、ウナギ、アユ、ヒラメ、フグ等が有名ですが、最近では資源の減少が続くマグロの養殖も研究されているようです。では、天然魚と養殖魚とでは栄養に違いがあるのでしょうか。

五訂増補 日本食品成分表 によると、養殖魚の項目があるのは、アユ、ヒラメ、マダイの3種類だけで、それ以外では天然魚と養殖魚は区別されていません。 マダイについて比較してみると、たんぱく質やミネラル、ビタミン等の成分に殆ど違いはありませんが、脂質のみ違いが見られます。 天然マダイの脂質が5.8gであるのに対して養殖マダイは10.8g(いずれも可食部100g当り)と約2倍の違いがあります。 ヒラメ、アユについても同様で脂質にのみ大きな違いが見られます。 この3種類の魚以外は成分に差が無いのかと言うと決してそういうわけではなく、 地中海で養殖されているの蓄養マグロ等は高カロリーの餌を与えることで全身がトロと言われるほど脂が乗っていますし、 北米等の養殖サーモンも高カロリーの餌を与えることにより脂質が非常に多いことが知られています。 一般的には養殖魚は天然魚に比べて、脂質の割合が高くなる傾向にあるようです。

一般的な評価として通常は養殖魚は天然魚と比べて味が劣るとされています。特に鯛やヒラメ等の白身魚ではこのような低い評価となりやすいようです。 養殖魚では脂質が多いために白身魚の魅力である、上品で淡白な美味しさと、刺身で食べたときのプリプリとした食感が 失われていると言われるています。狭い生け簀の中で飼育されるため運動不足になりがちで、身の締りがなくなってしまう上に、経済的な理由から短期間で成長させるために、高カロリーの餌を与えるためにどうしても脂質が高くなってしまうのです。 食べ過ぎの運動不足では脂肪がついて不健康に太ってしまうのは当然です。

しかし、近年は養殖の魚を食べなれた人が増えたせいか、天然物の魚では物足りないと 感じる人も増えているようです。脂ののりが売りのマグロやブリだけでなく、 上品で淡白な美味しさが身上といわれる白身魚でも価格が安いからではなく、 美味しいと言う理由で脂質の多い養殖物を選んで食べる人も居るようです。 美味しさの基準も時代と共に変化しているようですね。

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